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高松地方裁判所丸亀支部 昭和38年(わ)33号 判決 1963年9月16日

被告人 片山恒好

昭一七・九・三〇生 自動車運転者

主文

被告人を懲役一年六月に処する。

本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

押収してある運転免許証(五〇七三三号)一通(証第一号)を没収する。

本件公訴事実中、詐欺の点については被告人は無罪。

理由

(罪となるべき事実)

一、被告人は昭和三七年七月一二日頃自宅で仁尾隆幸から自己の所持する香川県公安委員会作成、同委員会の捺印のある被告人名義の自動三輪車運転免許証五〇七三三号を譲渡して貰いたい旨依頼されるや、該免許証を同人に譲渡した上は、同人において行使の目的で該免許証中の写真欄に貼付してあつた被告人の写真を剥離し、同所に仁尾の写真を貼付し、もつて該免許証に自己が片山恒好であるような外観を呈せしめて同委員会作成の自動三輪車運転免許証(五〇七三三号)一通(証第一号)を偽造することあるを察知しながら該免許証を仁尾に譲渡し、仁尾においては、同日自宅で右の目的並に方法で右公文書一通を偽造し、もつて仁尾の右公文書偽造行為を容易ならしめて之を幇助し、(中略)

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示一の所為は、刑法第六二条第一項、第一五五条第一項に、判示二の所為は、同法第二一一条、罰金等臨時措置法第二条第一項、第三条第一項第一号に各該当するので、判示二の罪につき所定刑中禁錮刑を選択し、公文書偽造幇助の罪は従犯であるから刑法第六三条、第六八条第三号により法律上の減軽をなし、右の公文書偽造幇助の罪と業務上過失致死の罪は同法第四五条前段の併合罪なので、同法第四七条本文、第一〇条により、重い公文書偽造幇助の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、情状により同法第二五条第一項を適用して本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予し、押収してある運転免許証(五〇七三三号)一通(証第一号)は、判示一の犯罪行為より生じた物であつて、何人の所有をも許さないから同法第一九条第一項第三号、第二項により之を没収する。

(無罪部分の理由)

公訴事実中、詐欺の点の要旨は「被告人は実際は自己の所持する自動三輪車運転免許証を遺失したことがないのに之を遺失した如く虚偽の申立てをなし、香川県公安委員会事務代行者観音寺警察署係員より該免許証の再交付を受けようと企て、昭和三七年七月一七日同署豊田警察官駐在所に行き司法巡査川西孝に対し該免許証の遺失届をなし、同月二七日同署署長より右遺失届が出されている旨の証明を得た上、係員を介し、同委員会事務代行者たる同署交通係長片山嘉造に対し運転免許証再交付申請書を提出し、同人をして被告人に於て真実該免許証を遺失したものと誤信させ、よつて右片山嘉造より即時同委員会発行名義の被告人に対する自動三輪車運転免許証(五〇七三三号)一通(証第三号)を交付させて之を騙取した」と云うにある。よつて按ずるに、道路交通法第九四条第三項が、免許を受けた者が免許証の再交付を受ける条件を、その亡失、滅失、汚損又は破損の場合に限定した趣旨は、免許を受けた者が交付を受ける免許証は之を一通に限定し、(同法第九二条第一項、第二項第一〇七条第一項第三号、第一〇九条参照)もつて道路交通取締の便益に資せんとする国家行政上の利益に基づくものである。それ故かかる文書を発行過程において権限ある官庁から不法手段により取得することによつて侵害されまたは侵害されるおそれのある利益は、免許証なる紙片そのものではなく、専ら前記交通取締の便益という国家行政上の利益であるから、かかる利益は刑法にいう財産上の利益には該当しない。本件についてこれをみるに、被告人において、事実免許証を亡失していないのに亡失した如く公安委員会に虚偽の申告をし欺罔手段をもつてその再交付を受けたとしても、それは前記道路交通法第一二〇条第一項第一五号に云う「偽りその他不正の手段により免許証の交付を受け」る行為に該当するものとして、罰金刑を定めた同法条をもつて問擬せられることあるは格別、詐欺罪を構成することはないと解する。よつて被告人の右所為は罪とならないから、刑事訴訟法第三三六条により無罪の言渡をする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 橘盛行 藤原寛 橋本喜一)

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